「月の恋人-歩歩驚心 麗」 韓国公式HP 20160817-3


1982年生まれのイ・ジュンギ。韓国の芸能界において彼の立ち位置は独特だ。言ってみれば、「イ・ジュンギの前に道はなく、彼の歩いた後に道ができる」という感じ。自分の潜在的な力を新しいイメージで表現するのが彼のスタイルなのだ。

類型とは無縁

韓国において時代劇は、ただの一つのジャンルというわけではない。歴史好きな国民が興味深く見るという意味で、制作者が誇りを持てるジャンルなのだ。

それゆえに、歴史的な史実の描き方が常に論議の的になる。あまりに実在の人物にフォーカスしすぎると、同じ類型の登場人物が多くなってしまう。そこに、時代劇の難しさがある。

しかし、イ・ジュンギが主演した時代劇の奔放さは特筆ものだ。

彼が演じる時代劇の主人公は常に魅力的だ。作品ごとに斬新なキャラクターがストーリーの中を縦横に動き、視聴者を存分に楽しませてくれる。

そういう意味で、イ・ジュンギは類型とは無縁の俳優だ。そのことは、彼が主演した作品名を挙げればわかる。
映画なら『王の男』、ドラマなら『一枝梅(イルジメ)』『アラン使道伝』『朝鮮ガンマン』『夜を歩く士(ソンビ)』『麗<レイ>~花萌ゆる8人の皇子たち~』など。

今まで見たことがないような美しい役を多様に演じるのがイ・ジュンギの真骨頂だ。

限界を作らない

あれは2004年のことだ。

私が編集長をしていた韓流雑誌でイ・ジュンギをインタビューしたことがあった。まだ『王の男』に出る前でイ・ジュンギの名前はそれほど知られていなかった。

彼には特別なマネージャーもおらず、ほぼ1人で日本で活動しているような状態だった。少しでも名前を知ってもらいたいということで、インタビューも彼自身の売り込みだった。そんな下積み時代でも発言の中身は感心するほどしっかりしていた。

イ・ジュンギは「誰かのような俳優になりたいとは思っていません」とはっきりと言い切った。

「この世界には多くの先輩俳優がいて、それぞれが自分のカラーを持っています。そうした先輩たちのいい部分をひとつずつ学んでいきたいと思っていますが、特別に誰かを目標にするのではなく、自分が不足している部分を補っていきたいという気持ちです」

「いつも学びながら努力していきます。目標は特に決めていません。目標を決めると、限界を作ってしまうからです」

重ねて言うと、この発言は2004年でまだ俳優として名前が知られていない時期のものだ。いわば、初心表明とも受け取れるのだが、当時の発言に現在のイ・ジュンギの真髄がすでに見えていると思える。

「自分で限界を作りたくない」

その気持ちが、時代劇に革新をもたらす原動力になっている。


文=康 熙奉(カン ヒボン)